産業歯科医について

 

産業歯科医の歴史的背景と法改正の流れ

産業歯科医の概念は、産業構造の変化とともに発展してきました。日本では高度経済成長期以降、化学工業や製造業が発展する中で、有害物質による労働者の健康被害が社会問題となりました。1972年に労働安全衛生法が制定され、産業医制度が確立されたものの、当初は歯科医師の役割は明確に規定されていませんでした。

1980年代以降、鉛やクロム化合物などの有害物質が口腔内および顎骨に与える影響が明らかになり、歯科的観点からの健康管理の必要性が高まりました。このため、特定の有害業務に従事する労働者に対して歯科健診の義務化が進められ、産業歯科医の役割が徐々に認識されるようになりました。

2000年代には、産業歯科医の必要性がさらに強調され、労働安全衛生規則の一部改正により、化学物質管理や労働者の口腔健康管理に関する規定が強化されました。これにより、産業歯科医は職場の労働環境改善において欠かせない存在となっています。

産業歯科医の概要

産業医は労働安全衛生法により職務が明確に規定されていますが、産業歯科医については労働安全衛生法ではなく、労働安全衛生規則(安衛則)第14条の見出しにその言葉が記載されているのみであり、安衛則の条文中にも明確な規定は存在しません。しかし、労働安全衛生法第66条第3項には次のような規定があります。

「事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行わなければならない。」

この規定に基づき、歯科特殊健康診断(歯科特殊健診)の実施において、産業歯科医としての役割が重要視され、立場が確立されています。

 

歯科特殊健康診断とは

歯科特殊健診とは、事業者が歯や口腔に有害な業務に従事する労働者に対して、年に2回、歯科医師による健康診断を実施し、その結果を所轄の労働基準監督署長に報告する義務を指します。この健診では、一般的な虫歯や歯周病の検診とは異なり、化学物質や粉塵による健康への影響を調査・管理することが目的です。診査の内容には、口腔顔面領域の皮膚、粘膜の状況、歯の状況、顎骨の健康状態などが含まれます。

 

産業歯科医の役割

産業歯科医は、歯科特殊健診の実施だけでなく、職場における口腔健康管理や労働環境の改善にも貢献しています。具体的には次のような役割があります。

有害業務の健康影響評価: 化学物質や粉塵などが口腔健康に与える影響を評価。

予防措置の提案: 職場環境の改善や予防策の提案を通じて、労働者の健康維持に寄与。

健康教育の実施: 労働者への口腔衛生指導や健康教育を行い、自己管理能力の向上を支援。

 

 

川崎市歯科医師会の取り組み

川崎市歯科医師会では、産業歯科医の重要性を認識し、歯科特殊健診の体制を整えるとともに、産業歯科医の役割をさらに確立することを目指しています。また、地域の事業所と連携し、労働者の口腔健康維持と労働環境の改善に貢献しています。

 

公益社団法人 川崎市歯科医師会 産業歯科保健部

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