健口かわさきコラム NO.5
我が国では25歳以下の若者のむし歯が減少している一方、高齢者の歯根部むし歯が増加しています。歯根部むし歯とはどのようなものなのかを説明し、対策をお伝えしたいと思います。
歯根部むし歯とは
まずむし歯には、歯冠部のエナメル質にできるむし歯と、加齢と共に歯肉が退縮し露出した歯根部にできるむし歯があります。両者とも原因は、お口の中のむし歯菌が糖分を栄養にして産生する酸で、歯の組織が溶けてしまうのが原因ですが、歯冠部と歯根部ではその構造が違うため、その進行具合が異なります。
歯根部は酸で溶けやすい
歯冠部を覆っているエナメル質は、97%が無機質(ハイドロキシアパタイト)で出来ており、酸に溶ける臨界点がph5.5と低く硬い構造です。さらに生え始めてから年数を経るにつれて、酸に溶けにくくなる傾向があります。
一方、歯根部は薄いセメント質に覆われた象牙質でできており、70%の無機質(ハイドロキシアパタイト)と20%程度の有機質(コラーゲン線維)と水分でできており、酸に溶ける臨界点がph6.7とエナメル質より溶けやすい構造になっています。
歯ブラシが難しい
また、歯根部の象牙質の表面が溶けると、中の有機質(コラーゲン繊維)が露出しボサボサした状態になり、歯垢が絡み付きやすくて除去が難しくなります。さらに歯根面は複雑な形をしていて、特に入れ歯を支えている歯の歯根部には汚れがつきやすくて歯ブラシが届きにくいため、むし歯が進行しやすいのです。(写真1)
気づかないうちにむし歯が進行してしまう
歯の根元で見にくいところに出来るむし歯は発見が遅れてしまいがちです。痛みなど自覚症状が出ないうちに進行してしまうケースが多く、非常に厄介です。
対策としては
少しでも早期に、歯根部むし歯になりにくくするための対策を講じたり、治療することが必要です。
フッ化物を積極的に活用しましょう
フッ化物の活用に代表されるのが歯磨き剤、うがい薬、歯面塗布の3つです。
最近の歯磨き剤はフッ化物が配合されているものが多くあります。フッ化物の上限濃度が以前は1000ppmでしたが、より高濃度な1500ppmの物が販売されるようになりました。根面のむし歯を予防するには、この高濃度フッ化物配合の歯磨き剤を使用することが有効です。より多くのフッ化物が歯磨き後のお口に残留するように、泡が立ちにくく少なめのお水でうがいを済ませられる、ジェル状やソフトペースト状がおすすめです。
うがい薬では、フッ化物洗口液が販売されるようになり、歯科医院だけではなく、薬局でも購入できるようになりました。1日1回30秒間から1分間うがいをするだけですが、むし歯予防効果がとても高く、歯根部のむし歯の予防や進行を止めるのに大変おすすめです。
フッ化物歯面塗布は歯科医院でのみ使用される、より高濃度のフッ化物で、歯を強化し、むし歯の予防や治療薬として使用されています。
定期的な検診を受けましょう
歯根面のむし歯を削って詰める治療は、再発が多いなどあまり予後が良くないとされています。定期的な検診を心がけ、むし歯が進行しないうちに対策していくことが大切です。
ご家庭でのお口のケア、食生活等の生活習慣、むし歯から歯を守る役割をする唾液の分泌に影響を及ぼす疾病やお薬についてのアドバイスを受けることでむし歯になりにくくすることが出来ます。
歯科医院での検診を是非活用してください。
公益社団法人 川崎市歯科医師会 地域医療部
書いた人 こじまウェルネスデンタルクリニック 小嶋章寛先生